NEW(2007年2月17日 )
こだわり世代のための旅行情報 〔日経/07.2.16)
「東洋のガラパゴス」。小笠原諸島(東京都・小笠原村)の自然を表現するのによく使われる言葉だ。小笠原は、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産の登録候補を載せる「暫定リスト」にエントリーされた。計5件の候補のうち、文化遺産は4件で、自然遺産は小笠原1件だけだ。2008年には日本への返還40年の節目を迎える。この機会に小笠原の自然を実体験したい。
小笠原諸島は東京から南へ約1000キロ。太平洋上に点在する約30の島々から成る。自治体名は「東京都小笠原村」。映画の舞台となった硫黄島も同村に属しているが、一般人は立ち入ることができない。
小笠原諸島には約500種類もの、小笠原にしか生息していない固有の動植物が息づく。進化から取り残されたかのような動植物がダーウィンを驚かせ、進化論を導くきっかけになった南太平洋のガラパゴス諸島(エクアドル)に例えられるゆえんだ。そのガラパゴスは1978年、世界自然遺産の第1号に選ばれている。
有史以来、大陸と地続きになったことが一度もない。だから、固有の生態系が誕生した。ほかの地域にはない観光資源を探して、全国の観光地が躍起になる中、小笠原は特権的な立場にあるとすら言えるだろう。それだけに、貴重な観光資源を生かそうとする試みも盛んだ。
動植物の生態を観察し、自然の恩恵を感じる体験・教養型の旅「エコツアー」は小笠原にはうってつけ。ガラパゴス諸島もエコツアーの先輩だ。東京都の石原慎太郎知事は2001年に自らガラパゴスに赴き、エコツアーを視察済みだ。
小笠原では生き物以外の、自然の造形美も堪能できる。島々を囲むエメラルドグリーンの海。海底火山が隆起した島ならではの地層もほかでは見られない。気候は亜熱帯で、パスポート不要とは信じられないリゾート気分に浸れる。
観光の最大の目玉とも言えるホエールウオッチングは日本では小笠原が発祥地とされる。2〜4月はザトウクジラを見るベストシーズンだという。夏から秋にかけてはマッコウクジラが現れる。イルカの群れやマグロの群泳に出会える可能性もある。サンゴの海中林が残るエリアもある。絶滅危惧種のアカガシラカラスバトや、固有種の落葉高木オガサワラグワはよそではお目にかかれない文字通りの「自然遺産」だ。
南島はサンゴ礁が隆起・沈降してできた「沈水カルスト地形」が見られる無人島。東京都自然ガイドが同行しなければ、上陸すらできない。1日当たり最大で100人しか足を踏み入れることが許されず、最大2時間までしか滞在できない貴重な観光スポットだ。毎年3カ月間の入島禁止期間が終わり、2月5日から再び入島できるようになったばかりだ。
小笠原での主なマリンプレジャーはホエールウオッチングのほか、野生のイルカと一緒に泳ぐ「ドルフィンスイム」や、ダイビング、シーカヤック、遊覧クルーズ、シュノーケリング、釣り、サーフィンなどがある。森や山を歩くトレッキングや、オガサワラオオコウモリを見るナイトツアー、満天の星を眺めるスターウオッチング、戦跡ツアーなど、海以外での楽しみも充実している。ワサビではなくカラシをはさみ、シマアジのしょうゆ漬けを握る「島ずし」も話の種に試してみたい。
一生忘れられない小笠原体験を、孫や子供にプレゼントしてあげることもできる。ブルーシー・アンド・グリーンランド財団は3月26〜31日の5泊6日で小笠原諸島を訪ねる「体験クルーズ」を募集している。客船「ふじ丸」に乗り込んで、東京−小笠原間を往復する。対象は小学校4年生から中学3年生。500人の仲間と過ごす共同生活の体験も貴重だ。小笠原では海洋観察、シュノーケリング、カヌー、ホエールウオッチングなどに参加できる。環境問題を学ぶカリキュラムも組まれている。参加費は8万円(晴海ふ頭集合・解散の場合)。
観光の足は船しかない。東京・竹芝桟橋から定期船「おがさわら丸」(小笠原海運)が1週間に1便のペースで父島の二見港との間を結んでいる。夏場やゴールデンウイークには便数が増える。25時間余りの長旅になるので、過ごしやすい楽な格好で乗り込みたい。東京−小笠原間には次世代高速船「テクノスーパーライナー(TSL)」の就航が検討されてきたが、2006年に国と東京都が就航を断念した。航空路線はコスト面から建設機運が十分に盛り上がっていない状況だ。
小笠原の地で育まれてきた固有の生態系は、人間が持ち込んだ外来種に脅かされている。例えば米国産のイグアナ科の「グリーンアノール」。絶滅危惧種のチョウ「オガサワラシジミ」や、「オガサワラトンボ」などトンボ類を食い荒らし、打撃を与えている。動物だけではない。外来種の樹木が小笠原固有の植物を駆逐に追い込みかねないような事態も起きている。 世界遺産の有力候補に早くから名前が挙がりながら、これまでリスト入りが遅れていた理由の一つもこの外来種問題だ。
地元自治体や支援団体は今後、正式登録を目指し、外来種の駆除と、もともとの生態系の維持に取り組む構えだ。環境省はあえて3年をかけて外来種対策を見極めた上で、2010年に推薦する見込みだ。世界自然遺産の登録が実現すれば、屋久島(鹿児島県)、白神山地(青森、秋田両県)、知床(北海道)に続く、国内では4カ所目となる。
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